2024年を振り返ってみると、賃貸住宅マーケットは都心回帰と家賃上昇機運が盛り上がった年ではなかったでしょうか。
弊社が保有している部屋も退出時には5000円以上上げて決まったところもあります。
この2年間で賃貸住宅市場は、再び生活の利便性が良く、通勤・通学という交通利便性の良い立地を選択する世界に戻ったように感じます。
新型コロナウイルスが2020年に本格的に流行して以降は、不要不急の外出を控えるよう各自治体が訴え、政府は戒厳令下を思わせるような〝外出禁止令〟を出し、人の移動が凍り付いていました。
しかし、2023年5月8日に感染症法上で新型コロナが季節性インフルエンザと同じ「5類」に変わりました。これを機に人の移動が回復に向かい、コロナ禍で郊外に向かって人たちが都市部に戻っています。
アットホームのマンション募集家賃動向を見ると、直近の昨年11月時点で東京23区と千葉県は、70㎡超のファミリー向けを除いて全タイプの家賃が上昇しています。神奈川県では全タイプが上昇し、埼玉県では30~50㎡のカップル向け以外の家賃が上がっている状況です。
福利厚生を背景に社会人向けが強気
上記の流れを踏まえて首都圏の賃貸住宅マーケットを俯瞰してみると、2025年も続くと考えられます。
物価高、光熱費高というようなインフレ社会ではありますが、賃上げ機運が続く公算が大きいためです。個人所得が伸びれば家賃負担能力が増し、都心部に部屋を借りられる経済的な耐性が強まるでしょう。
今年の春季労使交渉(春闘)は、昨年と同様の5%程度の高い伸びが期待され、3年連続で3%以上の伸びが予想されています。
賃貸住宅市場は、これから春商戦に突入します。インフレ社会と春闘の見通しを踏まえて、家主が募集家賃を引き上げてくる可能が高いと考えます。
学生需要よりも、社会人需要のほうが高めの家賃設定をしやすいと考えます。ワーカーのベースアップはもとより、企業が優秀な人材を確保するために福利厚生の一環として賃貸住宅を社宅的に借り上げて家賃補助も手厚さを増している現状です。なかには、家賃を7割から7割5分を負担する会社も見られるから驚きです。
「年収の壁」が引き上がることで変わる住む場所
一方、学生の賃貸住宅でも家賃を引き上げやすい環境にはあります。先般の2025年与党税制大綱では、年収の壁が引き上げることを決めました。
所得税に関する「年収の壁」は、従来の103万円から150万円に引き上げられる。大学生の子どもを扶養する親は、これまで子どもがアルバイトで稼ぐお金が103万円を超えると親が扶養控除を受けられなくなるため、子どもは扶養控除以内に年収を抑えていたが、これが150万円まで緩和される。
つまり、子どもにとっては、これまで以上に収入を増やすことができ、それにより少しグレード高い立地や物件に住み替えることがしやすくなることが考えられます。
大学の共通テストは1月18日~19日かけて実施されるが、最近の大学入試事情としては、学力による一般選抜ではなくて、学校推薦や自己推薦、小論文と面接など決めるケースが半数を超えています。
最近では学力のみで判定する一般選抜ではなく、特技や学生生活の内申点、学生時代に取り組んだことなどをアピールして入学するケースが約6割を占めるそうでうす。そしてそうした学生は、昨年秋ごろに既に合格をもらっていることから実質学生の賃貸住宅商戦はスタートしていると言えるでしょう。
賃貸住宅における社会人商戦
一方、社会人の商戦は息が長いといえます。社会人の移動辞令は、年度変わり直前の3月中旬以降に発出されるケースが少なくないですね。
企業は春だけでなく、秋にも異動辞令が多い。特にここ数年は、マンションなど分譲住宅の価格が高騰していることで、家族持ち世帯は一旦購入を諦めたり、様子見で賃貸住宅に一時避難する人が増えており、家族向けの家賃が上がる傾向にある。その家族向けの賃貸は品不足が強く、1LDKや2LDKのコンパクトタイプに流れてコンパクトの賃料を引き上げています。
賃上げにより単身者がワンルームではなく、少し広めのお部屋を選ぶケースも少なくない。このためワンルームタイプの家賃上昇は勢いを欠く可能性があるかもしれません。
いずれにしろ、首都圏の賃貸住宅市場は、インフレ耐性のついた消費者が家賃を引き上げる展開となりそうです。